富山県におけるむし歯予防(フッ化物応用)

Q&A

フッ化物とはどのようなものですか?
フッ素は自然の中に広く分布している元素の1つです。地殼にある約90の元素中,13番目に豊富に含まれています。フッ素は元素単独では存在せず、フッ化物は下記の①として螢石、氷晶石、リン鉱石、などに多く含まれています。地中はもとより海水、河川水、植物、動物などすべてに微量ながら含まれており量は異なるものの、私たちが食べたり飲んだりするものの中にも、必ずといっていいほど含まれています。
 また、フッ素は、私たちが日常生活のなかで使用する工業製品にも利用されています。フッ素樹脂加工(テフロン加工)として知られています。これらのフッ素樹脂の場合、フッ素が陰イオンの状態になることはなく、フッ素化合物として分類され、むし歯予防に用いられるフッ化ナトリウムなどのフッ化物とは全く性質が異なります。
 フッ素元素の陰イオンの状態にあるものをフッ化物イオン、または、フッ化物といいます。厳密には、フッ化物イオンが含まれる化合物をフッ化物と呼びます。むし歯予防に用いられるフッ化ナトリウムもフッ化物です。水の中で薄い濃度で溶解している状態では、フッ化物イオンとして存在しています。
フッ化物はどうしてむし歯予防に有効なのですか?
フッ化物がむし歯予防に有効な理由として、次のような働きがあるからです。
①歯の構造を強くする(歯質の改善)
フッ化物が歯の一番表層のエナメル質に作用し、エナメル質の結晶構造を改善します。エナメル質の構造は、ハイドロキシアパタイトという結晶構造でできています。この結晶は、むし歯菌が産出する酸に対して脆く、溶けてしまいます(脱灰)。
フッ化物が作用すると、ハイドロキシアパタイトがフルオロアパタイトという極めて酸に対して溶けにくい結晶構造となり、歯の表面が丈夫になります。
②歯の表面を修復する(再石灰化)
むし歯になりかかった(カルシウムが溶けだすこと)エナメル質に作用し、その部分に再びカルシウム等が沈着して歯の表面を修復します(再石灰化)。この修復はフッ化物が歯の表面にたくさんあると(歯の表面の濃度が高くなると)唾液中のカルシウム等を取り込む作用が働き、再石灰化が進行します。
また、再石灰化が進行するので脱灰するのが抑制されます。
③その他のフッ化物の働き
フッ化物は歯質を強くしたり、修復したりする作用以外にもむし歯菌の酸を産生するのを抑制したり、歯垢(細菌の塊)の形成を抑制する働きがあります。
フッ化物によるむし歯予防にはどんな方法があり、どのように分類できますか?
 フッ化物によるむし歯予防の方法は数多くありますが、広く普及し代表的なものと言えば水道水フロリデーション (水道水のフッ化物濃度調整)、フッ化物洗口、フッ化物歯面塗布、フッ化物配合歯磨剤などがあげられます。歯が顎の骨の中でつくられている時期から用いる全身応用法と、歯が生えてきたときに歯に直接作用させる局所応用法に分けられます。実施形態としては、みんなで行う予防方法(公衆衛生的予防方法)と個人で行う予防方法(個人衛生的予防方法)があります。
フッ化物とキシリトールやリカルデントの併用は有効ですか?
 有効です。キシリトールは糖アルコールの仲間です。リカルデントは牛乳たんばく質(カゼイン)と無機質(非結晶性リン酸カルシウム)の複合体(CPP・ACP)です。いずれも脱灰を抑制する作用、再石灰化促進作用がありますが、その結果生じた再石灰化物は特異的に強化されたものではありません。
 そこでフッ化物との併用が重要となります。再石灰化する際に微量のフッ化物が結晶内に取り込まれてくると、無垢なエナメル質よりも耐酸性のあるエナメル質が得られるからです。以上のことから まずフッ化物応用を行い、追加的にキシリトールやリカルデント含有ガムを応用すれば、より大きな相乗効果が得られると考えられています。
むし歯予防はいつ頃から始めればよいのですか?
 むし歯の特徴の1つとして、子供の病気であるということがいわれます。歯は生えて間もない時期(生えて2~3年の問)が一番むし歯になりやすいのです。乳歯は生後半年ころから生え始め、2歳半までにはほぼ生え揃います。したがって、乳歯のむし歯予防は生えはじめてから4・5歳くらいまでが重要な時期です。また、永久歯は、5歳前後から生え出し、おおよそ小・中学生のころに生え代わり、この時期がむし歯の一番できやすい時期にあたるのです。実際、学校保健統計の中で最も高い有病率を示すのがむし歯であり、小学校児童の約90%が乳歯または永久歯にむし歯を持っています。
 そこで、永久歯のむし歯予防は、このむし歯の一番できやすい時期である保育所・幼稚園、小・ 中学校等の子供の時期に実施されてこそ大きな意味をもつのです。つまり4歳から15歳くらいまでが永久歯のむし歯予防の重要な時期です。したがって、子供の時期に多数を対象に、簡単で効果的なむし歯予防を行うことが大切です。そのためには、家庭で行う甘味の適正摂取や歯みがさの励行に加えて、子供たちが集団生活する保育所・幼稚園や学校で、みんなで一緒にできるむし歯予防を実施することが必要です。なかでも、フッ化物洗ロは効果、安全性が高く、多数を対象に、容易に実施できることから、保育所・幼稚園や学校で行うのに最適な方法といえます。フッ化物洗口の効果を充分に発揮するために、実施時期としては4歳頃から中学校卒業まで継続することが望ましいといえます。
フッ化物を摂り過ぎた場合どんな害がありますか?
 どんなに安全と思われている物質でも量が過ぎれば害を生じます。フッ化物も同様で、適量ではむし歯予防に役立ちますが、過量に摂取すると害(中毒)を生じます。
①急性中毒
一度に多量のフッ化物を摂取したときに生じるものです。初期の中毒症状は、吐き気、腹痛、下痢などの胃腸症状や唾液がダラダラ出るなどの症状を示します。初期症状が現れる最少量は、体重1kgあたりフッ化物2mgとされています。 
また、治療や入院などの処置を必要とする量(推定中毒量)は、体重1kgあたり5mgとされています。例えば、初期の中毒症状は、体重20kgの子供が40mgのフッ化物を一度に摂取した場合に生じることがあります。ただし、通常むし歯予防に利用するフッ化物(フッ化物洗口、フッ化物歯面塗布フッ化物配合歯磨剤)では適量を使用している限り中毒を起こすことはありません。
②慢性中毒
長年飲料水等により過量のフッ化物を摂取したとき生じるもので斑状歯(歯のフッ素症)と骨硬化症があります。斑状歯(歯のフッ素症)となるのは適量の2~3倍以上の量のフッ化物を、顎の骨の中で歯がつくられている時期に継続して摂取した場合です。骨硬化症は、適量の10倍以上のフッ化物を数十年摂取し続けた場合に起こる場合があります。
フッ化物洗口で、誤って1回量を全部飲み込んでも大丈夫ですか?
 大丈夫です。例えばフッ化物洗口のうち、最もフッ化物濃度の高い週1回法(フッ化物濃度900ppm)について考えてみると、洗口液10ml全量を誤って飲み込んだ場合9mgのフッ化物を体内に 摂取したことになります。ただし、4歳児(体重16Kg)でも吐き気などの軽い急性中毒発現推定量は 32mgFなので1回量を誤って飲んでも問題はありません。
※もしもの場合の救急処置
 体重1kgあたり5mgFを超えた場合や、吐き気をもよおしたり、腹痛などを訴える場合には
 病院に連れていきましょう。
フッ化物歯面塗布後、唾液は飲み込んでも大丈夫ですか?
 大丈夫です。フッ化物歯面塗布に用いる薬剤は、塗布する準備段階ですべて飲み込んでも急性症状を発現しない安全な量を秤量しています。実際には、塗布後の口の中には余剰ゲルをふき取るので、使用量の約25%程度のフッ化物が口に残ります。これは、十分に安全な量であるため、唾液を飲み込んでも全く問題ありません。
歯みかきや甘味の適正摂取に加えフッ化物を利用する必要がありますか?
 結論からいうと、歯みがきや甘味の適正摂取だけでむし歯を確実に予防すること(特に集団において)は難しいことで、歯そのものの抵抗力をつけることが必要です。むし歯予防のための手軽な方法の一つである歯みがきの習慣は現在ではほとんどの人に定着していますが、完全にプラークを除去できている人はどれだけいるのか疑問です。 また、一番むし歯にかかリやすい臼歯(奥歯)の小窩裂溝のプラークには歯ブラシの毛先が届かないなどの限界もあります。
 甘味の適正摂取は、手軽にできる方法と考えられますが、歯みがきと同様、実際には個人の強い意志と努力によって徹底的にかつ時間をかけて実行しないと効果は現れないなど、特に小児にとって確実性が低いと考えられます。
 このような状況で最も効果的な方法がフッ化物の利用であり、実際、欧米の先進諸国では、各種のフッ化物利用によってむし歯が著明に減少しています。
 以上のことをまとめますと、歯みがきはプラークを取り除くためのむし歯予防方法、甘味の適正摂取はプラークを多量にできないようにするためのむし歯予防方法、そしてフッ化物は歯質強化を行うためのむし歯予防方法であり、それぞれのむし歯予防における作用は異なるため、いずれも不可欠です。 つまり、確実なむし歯予防方法とは、むし歯の4つの要因に対する4つの予防方法を組み合わせて行うことといえます。